Love Butterfly
サナギ
(1)
待ち合わせの店に現れたのは、なんともまあ、中学生かと思うくらい、幼い、少女だった。
「おそなってすみません。村木さゆりです」
十八で銀座のホステスになりたいなんて言うから、どんなスレた女かと思っていたら、まさかこんな……
僕の前には、この、さゆり、という子のバイト先の先輩のミカと、そのカレが座っている。カレは、僕の後輩というか、知り合いの店でホストをやっている、アキトという子で、偶然、渋谷で遭遇して、今僕は、こんなことになっている。
彼女は僕の隣に座って、どうやら、緊張しているらしく、俯いて、髪をねじりながら、顔を赤くしている。
「こちら、黒服の義人さん」
「こんばんは」
「こ、こんばんは……」
おいおい……こんな子が、銀座のホステスをできるわけないだろう。見た目は派手にしているけど、この黒いニットのワンピースは背伸び感満載で、下手なギャルメイクも、似合っていない。まさか、ヴァージンとか言わないよね?
「さゆりもなんか飲みなよ」
ミカはアルコールのページを開いたけど、オトナとして、それは認められない。僕は夜の世界の人間だけど、そういうことには、厳しいんだ。
「未成年はダメだよ」
僕はソフトドリンクのページを開いてあげた。彼女はちらりとメニューを見て、小さな声で、カルピス、と言った。
オーダーしたカルピスと、僕のジンバックが来たところで、軽く、カンパイ。グラスを軽くあてると、彼女は、手を震わせながら、半分ほど、一気に飲んだ。
「ねえ、隆也くん、大丈夫だった?」
「え? 何? カレシ?」
「違うよー。この子さ、超うるさいアニキがいるのよ。どこ行くんだ! とか、ちょっとでも遅くなったらでっかい声でガミガミガミガミ、ねえ、さゆり」
「う……うん……」
彼女はますます俯いて、顔を真っ赤にしている。どうやら、相当、恥ずかしいみたいだね。
「ほんとにさあ、てめえはダンナかっつうのー!」
どうやらかなりアルコールのまわっている二人は、何がおもしろいのか大爆笑している。それを見て彼女は涙を必死で堪えてる。なんだか、その横顔が……かわいいじゃん。
「お兄さんがいるの?」
「は……はい……あの……兄は、心配性で……」
「そうなんだ。僕も、キミみたいな可愛い妹がいたら、そうなっちゃうかな」
その僕の言葉に、彼女はびっくりした顔をして、大きな目を、ますます大きくして、僕をじっと見て、ちょっと嬉しそうに微笑んだ。その顔はまるで、天使、だね。
「あの、びっくりしました」
「何が?」
「義人さん……銀座の黒服さんとかいうから、もっとこう、ギラギラした感じかと思ってました」
「へえ、例えば、梅宮辰夫みたいな?」
僕は渾身のギャクを言ったつもりだったけど、さゆりは、ぽかんとして僕を見ている。は、恥ずかしいじゃないか!
「う、梅宮辰夫、知ってる?」
「なんとなく、知ってます。梅宮アンナの、お父さんですよね」
ああ、そう。そんな、マジメな顔で、答えないでよ……
ふと前を見ると、アキトとミカは、恥ずかしげもなく、絡み始めていた。隣の彼女は、恥ずかしそうに、下を向いている。
「さゆりちゃん、まだ、時間大丈夫?」
「えっ……あ、はい。大丈夫です」
明らかに無理してたけど、なんとなく、僕は彼女ともう少し話したくて、店を変えようと言った。
「でも、あの……」
「いいよ、あの二人はほっとけば」
僕は伝票に一万円札を三枚挟んで、店を出た。雨が降っていたらしく、道路が濡れていて、その雨も、雪に変わっていた。
「足元、気をつけて」
僕はタクシーを拾って、騒がしい渋谷を抜けた。
「おそなってすみません。村木さゆりです」
十八で銀座のホステスになりたいなんて言うから、どんなスレた女かと思っていたら、まさかこんな……
僕の前には、この、さゆり、という子のバイト先の先輩のミカと、そのカレが座っている。カレは、僕の後輩というか、知り合いの店でホストをやっている、アキトという子で、偶然、渋谷で遭遇して、今僕は、こんなことになっている。
彼女は僕の隣に座って、どうやら、緊張しているらしく、俯いて、髪をねじりながら、顔を赤くしている。
「こちら、黒服の義人さん」
「こんばんは」
「こ、こんばんは……」
おいおい……こんな子が、銀座のホステスをできるわけないだろう。見た目は派手にしているけど、この黒いニットのワンピースは背伸び感満載で、下手なギャルメイクも、似合っていない。まさか、ヴァージンとか言わないよね?
「さゆりもなんか飲みなよ」
ミカはアルコールのページを開いたけど、オトナとして、それは認められない。僕は夜の世界の人間だけど、そういうことには、厳しいんだ。
「未成年はダメだよ」
僕はソフトドリンクのページを開いてあげた。彼女はちらりとメニューを見て、小さな声で、カルピス、と言った。
オーダーしたカルピスと、僕のジンバックが来たところで、軽く、カンパイ。グラスを軽くあてると、彼女は、手を震わせながら、半分ほど、一気に飲んだ。
「ねえ、隆也くん、大丈夫だった?」
「え? 何? カレシ?」
「違うよー。この子さ、超うるさいアニキがいるのよ。どこ行くんだ! とか、ちょっとでも遅くなったらでっかい声でガミガミガミガミ、ねえ、さゆり」
「う……うん……」
彼女はますます俯いて、顔を真っ赤にしている。どうやら、相当、恥ずかしいみたいだね。
「ほんとにさあ、てめえはダンナかっつうのー!」
どうやらかなりアルコールのまわっている二人は、何がおもしろいのか大爆笑している。それを見て彼女は涙を必死で堪えてる。なんだか、その横顔が……かわいいじゃん。
「お兄さんがいるの?」
「は……はい……あの……兄は、心配性で……」
「そうなんだ。僕も、キミみたいな可愛い妹がいたら、そうなっちゃうかな」
その僕の言葉に、彼女はびっくりした顔をして、大きな目を、ますます大きくして、僕をじっと見て、ちょっと嬉しそうに微笑んだ。その顔はまるで、天使、だね。
「あの、びっくりしました」
「何が?」
「義人さん……銀座の黒服さんとかいうから、もっとこう、ギラギラした感じかと思ってました」
「へえ、例えば、梅宮辰夫みたいな?」
僕は渾身のギャクを言ったつもりだったけど、さゆりは、ぽかんとして僕を見ている。は、恥ずかしいじゃないか!
「う、梅宮辰夫、知ってる?」
「なんとなく、知ってます。梅宮アンナの、お父さんですよね」
ああ、そう。そんな、マジメな顔で、答えないでよ……
ふと前を見ると、アキトとミカは、恥ずかしげもなく、絡み始めていた。隣の彼女は、恥ずかしそうに、下を向いている。
「さゆりちゃん、まだ、時間大丈夫?」
「えっ……あ、はい。大丈夫です」
明らかに無理してたけど、なんとなく、僕は彼女ともう少し話したくて、店を変えようと言った。
「でも、あの……」
「いいよ、あの二人はほっとけば」
僕は伝票に一万円札を三枚挟んで、店を出た。雨が降っていたらしく、道路が濡れていて、その雨も、雪に変わっていた。
「足元、気をつけて」
僕はタクシーを拾って、騒がしい渋谷を抜けた。