Love Butterfly
 部屋に入っても、下からみんなの笑い声が聞こえる。
 パパは、有名な弁護士さんで、週に一回か二回、家に帰ってくる日は、こうして、七時にみんなでご飯食べる。
 でも、うちは、この時間が、すごく嫌い。だって、うちはいっつも怒られてばっかりで、お姉ちゃんは褒められてばっかりで、ママはパパのご機嫌ばっかりとって……
 しょうがないねん。うちは、お勉強もできへんし、顔もかわいくないし、お姉ちゃんみたいに、お友達もたくさんいてないし、学校も、おもしろくないし。
「あんたは、うちのお友達やんな?」
ふわふわのくまさんをギュってしたけど、やっぱり、何も言ってくれへん。うちはきっと、このお部屋から出られへん。大きくなっても、きっとうちは、このお部屋で、一人で……そんなん、イヤや!
「大きくなったら、こんなドレス着るねん」
部屋の隅っこには、ピアノがあるけど、ずっと、鍵がしまってて、もう、ずっと、弾いてない。
「大きくなったら、ピアノ、自由に弾くねん。大きくなったら、きれいになって、かっこいい男の人と、結婚するねん。大きくなったら……」
……うち、大きくなるんかな……うちほんまに、大人になれるんかな……
 また、ドアのノックが聞こえた。
「京子さん、お父様がお呼びです」
「何?」
「学校のことで、お話があるそうです」
「和子さん、代わりに聞いて」
「そんなことできません。さあ、下に降りて……」
どうせ、受験の話やん。そんなんもう、聞きたくない。
「お姉ちゃんと一緒の学校、がんばりますって、ゆうて」
和子さんは、また、ため息をついて、わかりました、って、下に降りて行った。
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