キミに翼を授ける
彼の顔を拝む余裕なんて全くない私は、真っ赤になった顔を見られたくない私は、先輩の黄色のシューズに目線を落とす。
「あ、あの…」
何か話さなくちゃ…!
向こうから話しかけてくださるなんて、こんなチャンスないよ、藍!
鼻血じゃなくて!勇気を出すんだ!!
「ん?」
ギュッと手汗を握り込む。
「きょ、きょきょきょきょうはお早いんですね!」
緊張のあまり裏返りかけた声。
それに何回"きょ"って言うんだよ私…。
俯いたまま白目になる。
と、佐山先輩はフッと口元を緩めた。
「うん。さすがに二日連続遅刻はまずいよね」
そう言うと彼はボールカゴからそれを一つ取って足元に落とし、コロコロと転がして遊ばせる。
そしてつま先を滑り込ませ器用にボールを浮かせると、軽やかにリフティングを始めた。
私の心臓も、ボール同様跳ね上がる。
今にも、胸を突き破って出てきそうな勢いで打ち続ける。