西森さんと瑠愛くん。(仮)
 

 「ウサギを渡したかった」は口実で、私より朝早く来て下駄箱を綺麗にしておけば、交渉に応じるとでも思ったのだろう。

 そうでなければ、朝寝坊の常習で、『護り隊』のモーニングコールがなければ起きないと言われているようなヤツが、早起きなどするハズがないのだ。


「……生憎だけど、私はアンタの“全校女子完全制覇”なんて、協力しないから」

 上履きをストンと手から落とし、首を傾げていたレトリバーの横を裸足ですり抜ながら、私は吐き捨てた。


 腹が立つ。

 誰のせいでイジメられてると思ってるの?


 それすら利用されたことに、腹が立って、悔しくて、馬鹿らしくなった。

「まっ……待ってモモちゃん!」

 モモちゃん・・・久しく聞いていなかった自分の呼び名と、強い力で引かれた腕に、私は思わず振り返る。

「……それ、周りのやつらが勝手に言ってるだけだよ」

 レトリバーは、酷く傷付いた顔をして、震える声で言った。
 
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