西森さんと瑠愛くん。(仮)
「芽吹ちゃんはね、美術科のある高校に行ってるの。部活も美術部に入るくらい、絵を描くの好きなんだ」
気を遣ってか、永峯君はずっと話をしてくれている。
特急とはいえ、海の最寄りの駅はまだ先だ。
あまり自分から積極的に話す方ではないから、どう過ごせば良いか悩んだが、杞憂に終わった。
「小さい頃から絵が上手でさ。たくさん賞をもらったりして……。
あ、芽吹ちゃんて、“芽吹く”って書いて“いぶき”って読むの。
母さんが名前付ける時、『息吹』と『芽吹き』がゴッチャなって、間違って付けちゃったんだ。最近は言わなくなったけど、昔はスゴい文句言ってたっけ」
その光景が浮かんだのか、永峯君は遠くを見る。
二人とも今朝会ったばかりだけれど、椿さんの悩む姿も芽吹ちゃんの言いそうな事も、私には容易に想像できた。
それからずっと、とりとめもない永峯君の話に、私は静かに耳を傾けた。