西森さんと瑠愛くん。(仮)
静かな海と。
繁忙期を過ぎた浜辺は、閑散としていた。
人影はなく、カモメの群れだけが、抜けるような青空と深い群青の海を謳歌している。
どこまでも静かな砂浜には、波の音と永峯君の声だけが響いた。
「美味しいっ。すっごく美味しいっ」
おにぎりや唐揚げを口いっぱいに頬張る永峯君は、はしゃぎっぷりを取り戻していた。
・・・或いは、さっきの事を気にしてかもしれない。
「そんなに慌てなくても、お弁当は逃げないから…」
お茶を注いで、詰まらせそうな勢いの彼に渡すと、照れたような顔になる。
「ごめん、つい、美味しくて…」
「うん、ありがとう。でも、詰まらせたら大変だから」
私もおにぎりを一つ、口に運ぶ。
食欲はある、と言ったら嘘になるが、今は平常心を繕うと決めている。
(……早起きした甲斐があったわ)
自分の作ったお弁当を、こんなに嬉しそうに食べてくれる人がいることが、素直に嬉しかった。