西森さんと瑠愛くん。(仮)
~父さん。
その後、ウサギりんごを食べながら、海を眺めた。
はしゃいでいた永峯君も、今は落ち着いて、りんごをかじっている。
波の音は心地いいが、沈黙はやはり、気まずかった。
電車での事を思い出し、後悔が頭の中でグルグルと渦巻いている。
どうしたら良いのだろう。
悲愴感が胸いっぱいに込み上げてきた時、不意に永峯君が口を開いた。
「父さんは……“俺の”父さんは、母さんを傷つけて、出て行った」
最後の一欠片をシャリシャリと噛みながら、彼は私を見た。
「……ごめんなさい、私……」
無神経だった、と目を伏せたが、彼は首を横に振る。
「当然だよ。誰だって、そう思う」
心の準備が出来ていない、突然の事だったから、動揺してしまった。
電車で何も言えなくて、ごめんね。
不安そうな、泣きそうな、複雑に感情が絡み合う心持ちであろう永峯君は、それでも優しかった。