西森さんと瑠愛くん。(仮)
「月葉ちゃん…姉さんの父親も、同じような人だったって。
まぁ、その上に母さんや姉さんに暴力振るってたって言うから、俺の父親の方がまだマシなのかな…」
ハハッ、と吐き出された永峯君の笑い声は、乾ききっていた。
「……でも、芽吹ちゃんの父親だけは、違った。うん……違ってたって、思いたい」
少し強くなった海風に身体を縮めて、永峯君はまた一口、紅茶を含んだ。
「………母さんも、やっと幸せになれると思ったのに………」
それだけ言って、暫しの間、紅茶の入ったカップで、手を温める。
前を向いたままの彼が、辛そうなのは明らかで。
続きを催促する事もなく、私もカップを両手で包んだ。
「………その日、母さんに保育園の俺と芽吹ちゃんの迎えを頼まれた父さんは、いくら待っても来なかった」
──血の気の引いた母さんが、フラフラで俺たちを迎えに来たのは、閉園時間ギリギリの頃だった。
俺たちの顔を見るなり、抱きすくめて、母さんはわんわん泣き出した。