西森さんと瑠愛くん。(仮)
~砂の城の思い出。
「この浜辺は、母さんが元気になり始めてから、みんなでよく来た場所なんだ」
波が来るか来ないかギリギリのところで砂の山を築きながら、永峯君はポツリと言った。
彼はしばらく帽子に涙を任せて、私はしばらく波の音を聞いていた。
慰め方を知らない。かけるべきであろう言葉をもて余す。
そんな時、突然、永峯君が立ち上がり、帽子をひょいと投げ置いた。
「………お城」
泣き腫らした顔でそう言って、チワワは砂浜へと駆け出していった。
入水でもするのかと焦ったが、波打ち際で立ち止まり、腕を捲ると、砂を盛り始める。
それに安堵して、砂に足をとられながらゆっくりと、永峯君の側へ行った。
「………お城、作る」
ぐずり、と鼻を鳴らして、彼は黙々と腕を動かしていた。