西森さんと瑠愛くん。(仮)
「私ね~桜町の路地裏で、“めると”ってケーキ屋さんやってるの~。今度るぅと来てよぉ、サービスするからさ~!」
芽吹ちゃんに絡めていた腕を放し、月葉さんはそう言って、反対側に置いてあったクッションにぼふっと上体を埋め、
「駿(しゅん)君が来たら起こして~…」
と言い残し、やがて眠りについた。
奔放な姉に、やれやれといったような表情を浮かべながら、芽吹ちゃんはそっとタオルケットを掛けた。
「………これ、月姉のお店で一番評判良いケーキ」
ソファーから静かに降り、やっとケーキを食べ始めた芽吹ちゃんが呟く。
月葉さんが差し入れにと持ってきてくれたのは、シンプルなショートケーキだった。
お店屋さんのケーキ、という味の中に、素朴な優しさを感じる味わいが隠れている。それが人気の秘密だろうと思う。
「………美味しい?」
探るような視線で、芽吹ちゃんに見つめられる。私は真っ直ぐに見つめ返して、何度か頷いた。