西森さんと瑠愛くん。(仮)
「私は、永峯君のただの同級生よ。私が彼女じゃ、釣り合わないでしょ」
自嘲とも苦笑ともつかぬ笑みが浮かびそうになる。それが嫌で、救出されたイチゴを噛み締め、紅茶を啜る。
私がカップを置くタイミングを見計らって、芽吹ちゃんも首を横に振った。
「そんな事、ない」
お世辞じゃない、と続けた、大きな瞳に見つめられる。
「愛兄は…いつも、優しい。けど…何て言うか…いつも少し、寂しそう。でも、桃香さんの側にいる愛兄は、楽しそうだった。初めて見た」
そう言って、大きな瞳は、私の背後に位置する流し台で、まだカチャカチャと洗い物をしているであろう兄に向いた。
「……友達、でも、良い。桃香さんと一緒にいる愛兄が楽しいなら、良い」
常時ツンとしている印象の芽吹ちゃんが、春の日だまりのような、穏やかな表情になる。
きっと、彼女なりに永峯君を心配しているんだと感じた。
しかし、流し台の水の音が途切れ、足音が二つ近づいてくるのが聞こえると、すましたペルシャ猫の顔に戻っていた。