天の音
「何でそんな大事な事を教えてくれないんですか⁉︎巡察に行って来ます。宴にも出ますよ‼︎でわっ‼︎」
と叫ぶと慌てて飛び出して行った。
「ふぅ…悪かったな。」
土方がこちらを見て、溜息をつく。
「いえ…」
「ところで平助、知り合いなのか?」
「知り合いと言うか…」
言葉を濁す平助。
「何てったらいいのか分かんないけどさぁー、多摩にいた頃に会ったことがあると言うか…」
「それだけか?」
「いやぁ…その…」
歯切れが悪くなってしまった。
「言えねぇことでもあるのか?」
更に詰め寄る土方。
「こいつは、巡察に出ていた三番隊が道で倒れてたところを見つけて運びこまれてる。斎藤の報告によれば、何故倒れてたのかは不明だが、不逞浪士の逃走する姿を目撃した隊士がいたんで、もしかしたら襲われてたのかもしれないと屯所へ運んだと言っていた。」
「襲われた⁉︎」
ギョッとした顔で平助がこちらを向く。
「大丈夫なのか⁉︎」
「あ…」
「襲われた時の衝撃か、混乱しているらしい。名前は姫音というそうだ。持ってた荷物を調べたが旅の途中だろうということくらいしか分からなかった。医者にも診てもらったが問題ないそうだ。だから、平助が知ってることがあるなら、教えてやってくれないか?思い出すことがあるかもしれねぇ。見た所、身なりも悪くねぇし、良いところの娘かもしれないだろ?探してる人間がいるかもしれない。平助の言うように多摩からであれば、連れがいるだろ?まさか娘が一人で京まで来ないだろ。」
混乱しているらしい私の代わりに土方さんが説明する。
多摩…そうだ、手紙…
と着物の合わせを探る。