天の音
「あの…手紙はありませんでしたか?」
「手紙?…いや、荷物にはなかった。」
「そうですか…」
「あの…さ、俺は藤堂平助。覚えてくれてるか分からないけどさ、安心していいよ。もうすぐ山南さんも帰ってくるし。それとさ、土方さん。俺もあんまり知らないというか…」
遠慮がちに平助が話しかける。知らないところにいる不安を少しでもとろうとしているのだろう。
「近藤さんの道場にお世話になる前に居たお寺で、山南さんが手習いとか教えてたの知ってる?」
「あぁ。」
「そこで会ったことあるんだよね。」
「姫音は手習いを教えてもらってたってことか?」
「いやぁ…それはないよ。俺も詳しくは分からないんだよね。通ってた風でもないし、住んでたのかなぁ?」
「何だそれ?」
(そうだよ)
姫音は思った。
混乱してるとはいえ、曖昧すぎな回答に土方同様に苦笑いするしかない。
「山南さんが帰ったら分かるだろ。」
土方は溜息をつき、平助に斎藤を呼ぶように言いつける。
平助は部屋を後にした。
「さて…お茶でも淹れてくるか。」
土方は立ち上がる。
「ここで待ってろ。お茶でも淹れてくる。荷物はこれだ、確認しておけ。それと、この部屋から一歩も出るんじゃねぇ。分かったな?」
「はい。」