天の音
荷物を確認しようと布団から出ようと身体を動かすと
「あ…あれ?」
グラリと視界が歪んだ。
歪んだ視界と共に頭の中にいやらしい目をした男の顔が浮かぶ。
「あ…」
突然、頭の中に浮かびあがった記憶に驚き、身体が震える。
声をあげることも出来ずに震える身体を抱きしめていると襖が開いた。
「おい?」
土方が戻ってきたのだ。
部屋を出るときと明らかに様子の違う姫音に眼を見張る。
「おいっ⁉︎」
机に湯呑みを置き、姫音に大きな声で話しかける。
宙を見据え、虚ろな眼でガタガタと震える身体を抱きしめている姫音に近づこうとするとバタバタと足音が近づいてきた。
「土方さん?」
「副長?」
「平助と斎藤か?入れ。」
平助が斎藤を連れて、部屋に戻ってきたのだ。
「失礼します。」
礼儀正しく、一礼する斎藤。
震える身体を抱きしめる姫音を見た平助は土方を見つめ、溜息をつく。
「土方さん、まさか…」
平助の考えを感じとった土方は鬼の様な形相で睨みつける。
「何もしてねぇよ。」
「でも…」
納得いかない様子の平助が姫音に近づき、布団へ戻そうと手を伸ばす。
「ヤメろ‼︎平助‼︎」
斎藤が声をあげる。
「いっ…イヤぁっ‼︎‼︎」
怯えた様な声で叫び声をあげる姫音。
布団から這い出て、部屋のスミでガタガタと震える。
這い出た事で見えた姫音の足には、くっきりと人の手形があった。
「あんの…ヤブがっ‼︎」
土方は手を握りしめた。