この気持ちをあなたに伝えたい
 すぐに否定してから心の奥にある罪悪感を取り払おうとした。さっき読んだ手紙の相手が待っている時間である。

「そう?」
「はい」
「てっきり彼氏でも待っているのかと思った」
「か、彼氏?」

 角重先生が言ったことが少し引っかかった。最愛の周りにいる人達はみんな女子の友達ばかりで男の友達は一人もいない。
 今まで一度も異性の人と恋人関係になったことがない。

「違います。どうしてそう思ったのですか?」
「だって、とても可愛いもの。それは他の人達もよく言っていることよ」

 はっきり言って無自覚。自分の姿を鏡に映しても、可愛いなんて思えない。
 綺麗で可愛らしい友達が別の学校にいて、その子が誰かに告白されたり、誘われているとこを何度も見たことはあるが、自分はほんの少しだった。
 最愛に対してそんなことを思っている人が何人もいるなんて知る由もなかった。
 まともに交際をしたことがない最愛にとって恋愛に関しては無知だった。

「先生は今まで誰かを好きになったことがありますか?」
「うーんとね・・・・・・」

 その問いかけに角重先生は何かを思い出しているような表情に変わった。

「なったじゃなくて、今もかな・・・・・・」
「そうなんですか?」
「恋人同士だったんだけど、別れちゃったから」

 それ以上角重先生も最愛も何も言わなかった。角重先生の顔を見たとき、何かをじっと見つめてから、最愛に視線を戻した。

「ごめんね? 変な話を聞かせてしまって」
「わ、私こそ、すみませんでした」

 最愛は慌てて、角重先生に頭を下げる。

「名波さんが謝る必要なんてないから。そろそろ行くわ。あまり遅くならないようにね?」
「わかりました」
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