この気持ちをあなたに伝えたい
 角重先生が立ち上がったので、最愛も慌てて立ち上がる。

「気をつけて帰るのよ」
「はい、さよなら」
「さよなら」

 角重先生は早歩きで図書室を出て行ったので、椅子に座り直した。居心地が悪くなって逃げるようには見えず、何かを追いかけるような感じだった。
 最愛は手紙の男子と鉢合わせになりたくないので、別の道から遠回りをして帰ることにした。
 でも、このまま帰っても面白いことは何もない。今日は両親の帰りが遅く、夕食は自分の分だけ作ればいい。やっぱりもうしばらくここにある本を読もうと椅子から立ち上がった。

「最愛!」
「深香!」

 窓を開けた人物は深香だった。鞄を肩にかけて、両手でカメラを持っている。彼女は写真部に所属していて、よく風景や動物、植物の写真を撮影している。

「深香、部活は終わったの?」
「うん、終わったよ!」

 いい写真が撮れたらしくて、とても喜んでいる。

「今度見せてね?」
「もちろん!」

 図書室にはまだ人が残っていたので、鍵をお願いしてから学校を出て、駅へ向かった。

「今日は何か食べに行かない? 最愛の風邪が治ったしね!」
「いいよ。どこへ行く?」

 深香とはときどき学校帰りにどこかへ行くので、それが楽しみの一つとなっている。

「ピザを食べたいな」
「了解」

 三駅先のところに人気の店があるのでそこに決定した。
 二十分で店に到着して、店内は他の客がそれほど多くなかったことを嬉しく思いながら、メニューを開いた。

「ここは始めて来た」
「本当?」

 深香はこの店にたまに来るらしい。

「写真部の子達と?」
「うん。一人で食べに来ることもあるよ。そっか、最愛とは初めてだね」
「別の店へ行くことはときどきあるよね」
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