この気持ちをあなたに伝えたい
 はっきりと断ったことに不満を抱いた角重先生は頬を膨らませた。

「いいじゃない、食事くらい。それとも誰かとこれから会うの?」
「誰とも会わない」

 古霜先生が会いたいと思っていても、約束なんてしていないから、会うことができない。

「だったら、ね?」
「悪いけど、そろそろ行かせてくれないか?」
「好きな人がいるの?」

 黙っていると再度、同じ質問を投げつけられた。古霜先生は好きな人がいることを認めた。

「年上? 年下?」
「・・・・・・教えてやらない」

 それでも角重先生は質問を続ける。

「私の知っている人?」
「彼女については内緒だ」

 他にもたくさん質問攻めをしたいところだったが、どれも教えてくれそうにないので諦めた。

「とても好きなのね」
「お前のことも本当に好きだったよ」
「本当に?」

 疑いの眼差しを向けると、古霜先生ははっきりと肯定する。

「そうでなきゃ恋人同士になっていなかった」
「だったら・・・・・・」

 どうして別れてしまったのだろう、角重先生は後悔の念に苛まれる。
 もしも別れていなければ、自分は今も幸せが続いていたのかもしれないと、同じところを何度も回るように考えていた。

「角重先生?」
「あ、何・・・・・・?」
「もう行くから」

 角重先生は大袈裟に肩を竦めて、手を振ってから古霜先生に背を向けて歩き出した。
 本当は相談なんて乗りたくない、自分以外の女の子のことを聞きたくないのが、本当の気持ちだった。
 だけどもう振り向いてもらえない。呼ぶ声も想いも彼にはもう届かない。彼のことが好きでたまらない気持ちが胸を強くしめつける。角重先生は項垂れて、彼と逆方向へ向かって歩き進んだ。
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