この気持ちをあなたに伝えたい
 古霜先生が化学室を出てから、数分後にドアが開く音がしたので、椅子に座り直してその方向を見ると、角重先生だった。
 会いたかった人物がいなかったことに角重先生はショックを受けていた。

「どっかに行ったよ」
「そうなの・・・・・・」

 会話が続かず、居心地が悪かったので、すぐに出て行こうとしている角重先生を餌打が止める。

「待って! 苺果先生!」
「何?」
「せっかく来たのだから、一緒に喋ろうよ」

 角重先生の手を引いて、椅子に座らせてから、餌打も隣に座った。餌打の顔を角重先生がじっと見ていたので、餌打は気になった。

「どうしたの? そんなに見つめられると照れるよ」
「似ているなって・・・・・・」

 餌打は自分の頬をゆっくりと指で撫でた。

「もしかして・・・・・・圭と?」
「そうよ」
「そうかな? 俺がよっぽどいい男だと思うよ?」

 自分に自信を持って言う餌打がおかしくて、角重先生は笑っていた。それは角重先生が久々に見せる笑顔だった。

「どうして逃げようとしたの?」
「ちょっと苦しくなっちゃったの・・・・・・」

 鏡で自分の顔を見ても、やはり自分は自分。餌打は古霜先生に似ていない。

「名波さんに会いに行ったのかしら?」
「それは違うと・・・・・・思う・・・・・・」

 餌打は強く否定することができなかった。最愛の話をしてから、古霜先生はどこか落ち着かない様子だったから。
 もしかしたら、本当に最愛を一目でも見ようと、会いに行ったかもしれない。

「そこは強く否定してほしかったな・・・・・・」
「ご、ごめん・・・・・・」
「謝らなくていいわ」
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