この気持ちをあなたに伝えたい
 名前は言わなくても、最愛はその人物が誰だかすぐにわかった。

「ご、五組?」
「そうだ」

 彼は五組の誰のことなのかわかっていない。

「言っても知らないからな・・・・・・」
「そんなに親しくないのか?」
「いや、何度も話をしたことがあって、そうしている間に俺のことを好きになったみたいなんだ。俺、どうしたらいい?」

 友達に縋りつく餌打に対して、最愛は怒りを必死に抑えながら、心の中では餌打を完全に見下していた。

「放課後、詳しく話を聞かせてくれよ」
「わかった・・・・・・」

 返事をした後、部活はないのかどうか確認した。

「あぁ、あったな・・・・・・」
「忘れるなよ」

 部活のことをすっかり忘れていたようだった。餌打とその男子が話をしていると、遊びに来ていた他のクラスの男子達が集まってきて、さっきの話を聞いて、放課後に情報室で話の続きをすることに決めた。
 チャイムが鳴ったので、他のクラスの男子達は大急ぎで教室へ走って行った。
 放課後、最愛と美鈴が二人で中庭に向かって歩いている。

「もう、今度は何を忘れたの?」
「弁当箱・・・・・・」

 溜息を吐いた最愛が担任の先生に呼ばれていたことを思い出し、慌てて職員室へ行った。
 最愛の後ろ姿を見ながらくすりと笑った後、美鈴が情報室を通り過ぎようとしたときだった。

「何の悩みを抱えているんだ? 餌打・・・・・・」
「実は、苗村のことなんだよね・・・・・・」

 自分の名前が出てきたので、美鈴は耳を澄ました。
 だけど、それは後に聞いたことを後悔する内容だということをこのときはまだ知らなかった。
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