この気持ちをあなたに伝えたい
気づかれないように
 指定された場所に到着すると、餌打は誰かに抱きしめられた。
 その人物が角重先生であることは顔を見なくても、声を聞かなくてもわかった。

「苺果先生、どうしたの?」
「今日ね、見ちゃったの・・・・・・」

 何を見たのか気になっていると、角重先生が先に口を開いた。

「圭と名波さんが二人きりでいるところをね・・・・・・」
「本当に・・・・・・?」
「間違いないわ」

 最愛は体育の授業のときに走っていたのだけれど、そのときに足を捻ってしまった。
 拒む最愛をクラスの友達が保健室へ連れて行った。友達に支えられ、足を引きずっている最愛を見た古霜先生は焦って駆け寄った。

「どうした!?」
「古霜先生、最愛ちゃんが足を捻っちゃったの・・・・・・」
「そうか、わかった。じゃあ、俺に任せて、授業に戻りなさい」

 友達に置いて行かれたくなかった最愛は友達の手を握ろうとした。
 しかし、友達はそれに気づくことなく、保健室から出ようとしている。

「はい。先に行くね? 最愛ちゃん」
「うん、ありがと・・・・・・」

 最愛が小さく頷いてから、友達は更衣室へ行った。
 それから古霜先生に手当てをしてもらって、そのまま更衣室へ戻ろうとした。

「おい! どこへ行く気だ?」
「・・・・・・教室へ戻ります」
「その足でか?」

 痛々しい足を見た最愛はそれ以上何も言えなくなった。

「保健の先生は?」
「今はいない・・・・・・」

 しばらくしてから戻るらしく、その間古霜先生が留守番をしている。保健の先生と仕事のことで話をするつもりらしい。
 席を外していることをいいことに、古霜先生は最愛との距離を縮めようとする。

「・・・・・・何ですか?」
「随分噂になっているな・・・・・・」
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