この気持ちをあなたに伝えたい
 少年は少女を軽々とおぶって、六階へ歩き進んだ。

「私のことを知っているの?」
「うん。名波最愛(ななみもあ)ちゃんでしょ?」
「そうだよ」

 挨拶をしていなかったので、知らないはずだった。もしかすると、どこかで見て、聞いたのかもしれない。

「引っ越したばかりに君のお母さんが挨拶に来たよ」
「そうだったの」

 それを聞いた最愛はすぐに納得した。

「それでなんだ」
「俺は敷町礼雅(しきまちれいが)だよ。よろしく」
「こちらこそ、よろしく」

 おんぶされているので互いの顔は見えないとわかっていても、頭を下げた。
 ドアの前に着くと、おんぶしているにもかかわらず、器用に鍵をポケットから取り出して、ドアを開けてから最愛をその場に立たせ、靴を脱いだ。

「お邪魔します・・・・・・」
「どうぞ」

 リビングに真っ白なソファや黒いパソコンが置いてあり、窓辺には室内物干しを設置してある。自然の光が差し込んでいて、ナチュラル感溢れるインテリアだった。

「綺麗な部屋・・・・・・」

 もっとものがその辺りにあるのかと思っていたので、最愛は驚いた。

「そう? 適当に座って」
「はい」

 礼雅にリビングで傷の手当てをしてもらってから、麦茶をもらったので喉を潤していた。

「ありがとう、礼雅お兄ちゃん」
「どういたしまして。風呂に入るときは気をつけること」
「風呂・・・・・・」

 傷を負った最愛にとって、風呂に入ることは少し憂鬱だった。

「ちょっと嫌だよね・・・・・・」
「傷口を手で覆ったら、平気かな?」
「何もしないよりいいかもね」
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