この気持ちをあなたに伝えたい

　本人が気づかないうちにその場から即座に離れた。

「何でこんなところまで来て会ってしまうんだ？」

　彼女は最愛に嫌がらせばかりしてきて、中には雛が被害者だと勘違いする人が何人もいた。何度か否定したものの、加害者の言葉は全て信じられないと弾き飛ばされた。男が彼女の猿芝居に引っかからなければ、一番いいことだが、そう都合良くならないのが現実だった。

「気分悪い・・・・・・」
「大丈夫？」
「うわっ！」

　驚いて後退すると、心配そうに見ている女が最愛の前にいた。

「ごめん！　驚かせるつもりはなかったの」
「あ、あぁ・・・・・・」

　彼女は申し訳なさそうな顔をして、最愛を見ている。

「私が誰だかわかる？」
「えっと・・・・・・」

　頭を抱えながら唸っていると、彼女が止めに入った。

「いいよ、無理に思い出そうとしないで。大学生になってまだ数日しか経っていないから」
「私と同じ大学の一年？」

　学部が同じなのかさえ、記憶していなかった。

「そう。私は佐伯芽実（さえきめぐみ）。よろしくね？　名波最愛ちゃん」
「あぁ、よろしく。佐伯さん」
「下の名前でいいよ？　じゃないと呼びにくいでしょ？」

　それに頷いた最愛は下の名前で呼ぶ。

「わかった。芽実」
「よしよし。そうだ、どこかで休まない？　気分が悪化するだけだろうから」

　芽実と一緒に入ったのは喫茶店。注文した飲み物はクリームがトッピングされていて飲みやすかった。芽実が注文したものはメープルラテ。
　そっちも美味しそうなので、今度注文してみることにした。

「何か食べる？」
「いや、いい・・・・・・」