この気持ちをあなたに伝えたい
 もしも驚かされなかったとしても、転ばなかったとは限らないから。それはそれで情けない。

「最愛ちゃんがマンションへ引っ越したときも転んでいたっけ?」
「できることならずっと忘れていてほしかった」
「だって思い出したから。あのときより体重が重くなったよね」

 最愛でなかったら、言われた相手は怒っているだろう。

「いつと比較をしているの?」
「最愛ちゃんが今よりもっと小さかったとき」

 マンションに到着して、礼雅はポケットから鍵を取り出してドアを開けた。
 礼雅の背中が大きい。あの頃よりずっと。

「はい、座っていてね」
「私、いつ脱いだの?」
「たった今だよ」

 自分の足を見ると、靴を履いていなくて、ソファに座らされた。

「俺が脱がせた。最愛ちゃんを呼んでも返事がないから、てっきり寝ているのかと思ったよ」
「ご、ごめん・・・・・・」
「最愛ちゃん、傷口が砂で汚れているから水で洗い流そう。そのままにすると、危険だからね」

 礼雅に手当てをしてもらい、最愛は改めて感謝を伝えた。

「さてと、またおんぶしようか?」
「いい! 歩ける!」
「恥ずかしがらなくていいのに・・・・・・」

 近所の人達に見られたら恥ずかしい。最愛がそう考えていると、礼雅が静かに息を吐いた。

「怒られるね」
「怒られる?」

 一体誰のことを言っているのかわからず、首を傾げた。

「君のお母さんに。一人娘に傷を作ってしまったから」
「だから違うよ! このことは私がお母さんにきちんと説明するから!」

 この程度の傷なら、治るのは数日だろうから、礼雅が気にすることはない。
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