この気持ちをあなたに伝えたい
「鞄の中だから・・・・・・」
「父は仕事の都合でいなくて、母は随分前から決めていた友達との旅行で帰らない。聞いていなかった?」
「ちゃんと聞いていた・・・・・・」

 聞いていたものの、日にちをすっかり忘れていたので、まさか今日だったとは思いもしなかった。

「せっかくだから二人きりで話をしようよ」
「い、嫌・・・・・・」
「お前に拒否権なんて与えない」

 自分を抱きしめながら断ると、階段のところで聞いた低い声を発した。

「礼雅お兄ちゃん・・・・・・」
「俺がどんな気持ちでいるのかわかっているのか? あんなに甘えてきたお前がいきなり態度が豹変して・・・・・・」

 自分だって豹変していると指摘したかった。
 礼雅は本当に理由がわからないと言っているように聞こえた。

「俺達だけだから誰にも邪魔をされる心配はない。それにお前に俺から逃げられない」
「何をしようとしているの?」

 足も動かず、鋭い視線に目を逸らすことも許されなかった。聞きたくないのに、耳を傾けてしまう。

「男女が二人きりでやることといえば選択肢はいくつもあるだろ? その中から選ぶこともできれば、全部やってしまうことができる。足りない色気だって少しは身につくだろ?」
「なっ!」

 最愛は礼雅に侮辱されたことに腹が立って手を振り上げると、その手を掴まれて壁に押さえつけられた。

「ふざけんな。いい加減にしろよ、この色魔!」

 大声で怒鳴りつけると、礼雅は面食らった顔をした。

「まさかそんなことを言われるとは思わなかった。俺のことを殴ろうとして、ひょっとして別人だったりするのか?」
「そんな馬鹿なことないに決まっているだろう? いつまでこうしている気だ?」
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