この気持ちをあなたに伝えたい
 母とは食べ物の好みが合う。家で何かを作るときや外食をするときは同じものを頼むことがよくある。

「今日は合わせたのか?」
「全メニューを見ても、それが一番美味しそうだから選んだの」

 満足げに笑いながら店員から商品を受け取り、ベンチに座って飲んだ。

「前にショッピングモールへ行ったけど、店が変わっていたわ」
「そうなのか?」
「ええ」

 それは初耳なので、詳しいことを知ろうとする。

「新しい店は好みでないところが数店舗あるの・・・・・・」
「夏休みになったら、行ってみるか」
「そうだ、礼雅君と出かけるのよね? 彼から聞いたの。お父さんと出かけることを話したから、ゆっくりしておいで」

 自分の知らないところで二人がやり取りをしているので、余計なことを言っていないかハラハラさせられる。

「どこへ行くんだった?」
「神戸までデート」

 語尾にハートがつきそうなくらい甘くて幸せそうな声だった。

「当日は浴衣だから、ちゃんと手を繋いでもらいなよ」
「うん。お母さん・・・・・・」
「ん?」
「今日もありがとう」

 礼を言って照れくさくなったので、浴衣の袋を見せるように持ち上げてから横を向くと、母に頭を撫でられた。


 花火大会当日、マンションを出る二時間前に深香が家に来てくれた。授業が終わったときに礼雅と二人で出かけることを深香に話すと、最愛に似合うメイクを施すと張り切った。

「最愛のお母さん達はもう行ったね」
「私に浴衣を着つけてからな」
「夫婦で出かけるなんて、本当にラブラブだね!」

 深香も前から最愛の両親が仲良しであることを知っている。

「目の前で見ている私が恥ずかしいな」
「ふふっ・・・・・・」
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