恋愛の神様
「こんにちは。二之宮さんいらっしゃいますかぁー?」
底抜けに明るい声で言って、女性がひょっこり顔を覗かせた。
まだ二十代もそこそこの若い子。ブランド物の服やバックの小セレブみたいなお嬢様だ。
エントランスで門前払いを受けることなくココに辿り着いたからにはちゃんとした『お客様』なのだろうけど、場所にそぐわない闖入者にみんな怪訝な顔をする。
「二之宮でしたら、只今席を外しておりますが……」
「あらそう。ちょっと早く来すぎちゃったかしら。いいわ。約束はあるから直ぐ来ると思うし、待たせてもらうわね。」
ニッコリ笑って、勝手に応接セットに腰を下ろしかけ、ガラス越しの廊下に男の姿を見つけて飛び出して行った。
二言三言何か会話して、二人が来客専用の応接室へ消えた。
胸にざわつくモノを感じながら、私は給湯室でコーヒーを用意して二人のいる応接室へ向かった。
「あら。ありがとございまーす。」
その派手目な容姿に反してカノジョは中々しっかりと私に向けて挨拶をした。
カレも当たり前のように「ありがとう」と言ったけれど、視線は書類に落ちたまま―――『二之宮専務』の貌。
私はコーヒーを置きながら、チラリとテーブルに広げられた書類に目を向けた。
『阿藤建設』
会社の―――建設部門で取引のある社名だ。