恋愛の神様
将来は一国の主―――か。
冷酷無感といわれる言動に反して、あれでいてカレはすこぶるつきの野心家だ。
仕事を精力的にこなし、今の地位にのぼりつめたのがその証拠。
今現在、幅を利かせている夫人一派を蹴散らかして、将来は自分がこの会社を牛耳るつもりなんだと思う。
しかし何かと異勢力が犇めき合うこの会社で肩意地を張らずとも、トップに立ちたいだけなら、婿養子の件は十分に魅力的だろう。
ぎゅっと私は唇を噛み締めた。
分かっているもの……
私は何も持ってない。
学校では優秀と持て囃されていたって、社会に出ればちょっと気が利くだけの単なるOL。
頂点を目指すカレをバックアップするものなんて何も持っていない。
カレにとって私の価値って一体、ナニ?
時折、思い出したように相手をしなきゃいけないだけのコイビトなの?
仕事に夢中のカレには何の価値もない―――名ばかりの置き去りの恋人。
胸がぎゅっと詰まって、酸欠気味の頭がグラグラする。
作業が捗らず、定時より余分に時間を費やして仕事を終えた。
私はのろのろと携帯電話を取り出した。
「どういう心境?亜子から誘われるなんてメズラシイ事もあるもんだ。」
ノックの音に扉を開けると、相手は開口一番そう言った。
茶化しているのか皮肉なのか分からない微妙な口調。
挑むような瞳から逃げるように、スルリと身体に擦り寄った。
「……なんか、あった?」
「別に何もないわよ。」
探るように尋ねてくるのを私は平静な微笑でかわす。
「私に誘われたら迷惑?」
試すように問い返す私をレオはじっと見つめていたが、やがて「いいや」と首を振った。
「大歓迎。」