恋愛の神様
草賀零於
※※※rei kusaga※※※
薄く白んだ空の下を俺は歩いた。
亜子が疲れきるまで攻め立てて、明け方タクシーに乗せて見送った後。
マンションまでは微妙に距離があって、常なら俺もタクシーを使うのだが今日は無駄に歩きたくなった。
イライラしながらポケットから煙草を取り出して、それが空だと知ってぐしゃっと握りつぶす。
あー………
ばっかみてぇ……
こんな平日に、しかも亜子から唐突に誘いが来るなんてメズラシイにも程がある。
亜子は何も言わなかったけど、その理由を俺は知っている。
知りたくもないが、『イケ面専務』の話なら周囲の下世話な女子社員がかましく囀り合うからイヤでも耳に入ってくる。それが恋バナなら尚更な。
実際そんな噂は少し前に賑いを見せていて、内容が内容だったから当人を敬遠したらしい。
本日、渦中の人物が会社に乗り込んできたらしく、ようやく当人の耳に入ったというお粗末な経緯だ。
チクショウ。
俺は寂しい時の抱き枕じゃねぇっての!!
自暴自棄みたいに男に抱かれて我を忘れたくなるほど、傷ついたのかよ。
それほどアイツが好きなのか?
だったらいっそ、アイツに尋ねればいいものを―――
だが、そう出来る程、亜子は愚かにはなれない。
そして、黙って飲み込む程強くもない。
なんて弱くて哀れな女。
その弱さに俺は絆される。
どうしてもほっとく事が出来ない。
単に虎徹の代わりなのだと分かっていても―――。