恋愛の神様
俺は苛立ったのを取り繕う気もなく、身を翻した。
傍の棚に身を預け、はっと短い呼気を吐き捨てる。
「なあ、いつ別れんの?」
ささくれ立った俺を気遣うようだった視線が反らされる。
ああ。
俺だって分かってる。
コイツに別れる気なんてないことくらい。
天秤にかけたら、切り捨てられるのはアッチじゃなくて俺の方だってのもな。
それでもこんな意地の悪い質問をぶちかませてしまうのは、少なくとも今すぐ切り捨てられないという自信があるからだ。
アイツと別れる気がなくとも、俺を手放すことは出来ない。
今はまだ。
俯いた彼女の顔は今にも泣きそうで、ちょっと良心が咎めた。
彼女に罪があるとしたら俺も同罪で、俺は彼女を一方的に責められない。
いや、寧ろ俺が彼女を唆し罪を犯させたのだから、俺の方が重罪だ。
「ゴメン。冗談。」
軽い調子で言って彼女の耳元に軽くキスをする。
顔色を窺うように恐る恐る持ち上がる顔に甘ったれた子犬のように鼻先を押し付ける。
「しゃーねーから今は我慢してやるよ。そのかわり夜はちゃんと空けとけよ。」
どこかほっとしたような彼女の顔。
その安堵が話を切り上げたことに対してか、俺に見切られなかったことに対してかは分からないけれど。
多分、両方ともだろう。
頬にうっすら朱を滲ませて彼女は小さく頷いた。