恋愛の神様
俺はイライラと落ち着かない気分で再び煙草を取り出して口に咥えた。
「んー。別に大したこっちゃねーんだけど。後輩がさ、この週末に一泊で部長のお伴で取引先の視察に行ってんだ。」
なんとかの一念岩をも通すってか。
鹿島部長、まんまと馬場課長を蹴倒して、今回だけという約束で野山を借りつけたらしい。
視察先ってのがこの間の企画の仕入れ元だからだ。
「それは…………大した事あるんじゃない?」
「な!やっぱり、亜子もそー思うだろ!?」
神妙な顔で同意を示してくれた亜子に思わず身を乗り出す。
「や、別に仕事が出来ないヤツじゃねーんだけど、アイツどっかしら抜けんだよ!思わぬトコロですっぽ抜けやがんだ!!」
「…しかも鹿島部長とサシなんでしょ?」
ヤツの脅威を知っている俺と亜子はそれっきり押し黙った。
生きて帰れるかな、アイツ
……悉く不安だ。
部長は一見、怠け者っぽくみえて……実際、人に仕事を押し付ける事も多いんだが、やるときゃとんでもねぇ量の仕事をこなす人だ。
ざっくざっくと。
そりゃもう、金塊でも掘る勢いで。
しかもスケジュールなんてものは端から無視してアドリブ行動だから、お伴は遠心力も加算して大いに振り回される。
一課の野郎共だって、着いて行けるヤツァそういない。
クスリと亜子が笑う。
「大丈夫よ。アナタがちゃんと仕事が出来るって言うくらいの子だもの。…それより、アナタがそんなに後輩想いだっだなんて。知らなかったわ。」
からかうようにそう言って擦り寄ってくる。
亜子と口付けを交わしながらも、俺はどこか気もそぞろだった。