恋愛の神様
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週末にしては意外と早く亜子と別れて、帰りがけにダメ元と思いながら携帯を掛けてみた。
時間は六時。
最近の俺の冷たい態度に対する意趣返しで電話に出ないとかなら、マジで止めろよ。
そんな思いが通じたように、不意にコールが途絶えた。
『うーちーむーらーのぉぉぉ、選択はぁー、正しかったぁぁぁ』
開口一番のセリフがソレ!?
電話口から垂れ流れたおどろおどろしい声に俺は某ホラー映画を思い出しながら固まった。
朝っぱらからコイツは……。
呆れたが、野山らしくて思わず噴き出す。
「はよ、チィちゃん。大丈夫か?」
『くさ、草賀さぁあん。大丈夫じゃあないですぅぅぅ!!』
途端に野山は電話口に縋りついてきた。
取引先の視察だけだった予定だが、その近くにあるという下請けにも行く事になり、更にはその原料を調達する現場にも出向く事になり―――。
取引先から下請けに行くのに片道一時間、そこから現場には三時間。
その後、取引先に戻るのに一時間。
しかもイロハ坂なんざ目じゃない山道を。
『レンタで移動致しましたがっ、社長も部長もっ…グネグネの山道をっ、速度も下げずっ!ワタクシ危うくガラスを突き破ってマヂで宙に舞うトコロでしたぁっ!!』
更には、ウチの会社の別カテゴリに属する―――今回の仕事には全く関係のナイ取引会社にまで―――近くにある、という理由で連れて行かれたそうだ。
無論、ただ連れて行かれるだけではなく、物は試しと仕事を手伝わされた、という。
今回の視察にあたり、持ち物に温泉セットではなく、ジャージ必須と言われたワケがようやく分かった!と野山は喚いた。