恋愛の神様
俺を前に意味もなくビビって挙動不審になる輩は随分多いが、こんな風に食ってかかるヤツは、部下であれば尚更少ない。
小生意気なヤツだ、と唸るが、実際のところ俺はコイツを気に入っている。
自慢じゃねーけど俺はな、人を見る目はあんだぞ。
野山小鳥。
仕事は丁寧で、基本デキル。
要領が悪いのは一長一短―――多少ズルくても間に合わせが出来るヤツは使えるしな…その反面、手抜きや妥協がないヤツは遅くて頑固だ。
まぁ、信頼できるという意味では『買い』だ。
何よりもコイツの持ち味。
なまじ三枚目の方が結婚詐欺師に向いている、という実例どおり、営業でも成績上げようとイヤらしく押し迫る熱いヤロウよりも、このぼへーとしたカンジのが相手に取り入り易いといったもんだ。
現に一癖も二癖もあって、鼻もちならねぇ一課の小僧を連れて来ようもんならケッチョンケチョンにイビる今野のオッサンが気に入ったくらいだ。
あれは田舎談義が効いたな………
仕舞いには『我が娘』とか言わしめていた。
アッパレだ。
それに対してひよ子は『おとうさま~』とかノリを合わせる風もなく『ワタクシの父は二人もおりませんヨ』と平静に返す愛相のなさ。
その媚のなさがまたウケタみたいで、今野のオッサンは終始ご機嫌だった。
ご機嫌ついでにアッチコッチ連れ回すのは止めてもらいたいもんだが……
まぁ、取引が思った以上で調提出来たのでヨカッタもんとす。
「今回は大いに褒めてやる。俺に着いてこられるなんざ、チビのくせにスゲェこった。やっぱ俺の目に狂いはなかったぜ。俺に褒められんだから大いにエバッていいぞ。」
一課の小僧だって逃げ出すモンだ。
最後まで音を上げず着いてこられただけでも大したもんだぜ。