恋愛の神様
唸って肩で息を吐く。
「余計なお世話、だ。女房なんざ、一人いりゃ沢山だ。…尤も、捻くれたヤツだから老後は心配だがな。」
ひよ子は野良猫に遭遇したみたいにフリーズした。
三分間の沈黙の後―――
「えええええ!!」
絶叫を放って詰め寄ってくる。
「おく、奥様いらっしゃるんですか!?部長に奥さん………想像出来ません。ツキノワグマ辺りでしょうか?」
「オマエ、マジで俺を何だと思ってんだヨッ。」
「えー……ですが、みなさん、部長は一人身だって…」
あくまでも胡散臭そうな呟きに肩を竦める。
「そのみなさんってのは若い連中だろ。そんで正しくは一人身じゃなくて、一人暮らし。学生結婚で、数年前に別居…っての、古株連中なら知ってっぞ。」
「別居……」
そう言ってひよ子は押し黙った。
少しだけ考えて、訪ねてくる。
「ワタクシ、別居というものが今一理解しかねます。一緒にいたくないのでしたら、潔く別れた方がお互いのためだと思いますし、この先一緒にと考えていらっしゃるのでしたら、一時はガマンしてでも一緒に生活すべきかと思うので。」
ひよ子らしい考え方に俺はふっと顔を緩ませた。
「別れるべきか一緒にいたいのか、分かるまでの猶予、だな、多分。」
「分かるまでの猶予、ですか。」
「ま、ウチの場合ちょっと特殊だぁな。嫁サン、バリバリのキャリアウーマンで、家事にはむいてねー女だし。俺も別に家に入って欲しいとは思わなかったし、肩代わりできるほど家事もむいてねーし。で、互いに仕事にのめり込んでいたら、こんな状態になった。」