恋愛の神様



ひよ子と別れて歩き出して直ぐ、頭上からポツリと冷たい物が落ちてきた。

雨だ。
気が効くな。

次いでのように渡された百斤傘を頭に翳す。

透明なビニルに落ちてくる水滴を見詰め、不図、過去の記憶に遡る。


そいえば、あの日もこんな雨だった。









『メイ………ゴメンね。私……赤ちゃん、堕してしまった……』




まだお互いに学生だった。

まるで深刻になる事もなくて、ただ愉しいばかりの蜜月。

彼女には夢があって、その夢に向かって就職活動も順調に進んでいた。

だから今、子供を産むわけにはいかなかった。

電話口でそう泣きながら告げた彼女を俺は責められなかった。

俺だって漠然と将来の事くらい考えていたさ。
その将来には当たり前に彼女がいて、いつかは結婚もするだろうと思っていた

………が、それは今じゃなかったから。

突然突き付けられた現実に背中がひやっとした。




俺はツライ選択を彼女だけに強いた事を、悔いた。

彼女は彼女で、二人で考えるべき問題を勝手に決断してしまった事に、傷ついて。



ゴメンナサイ、と何度も謝る彼女の元へ俺は駆けた。


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