恋愛の神様



フロアで女は立ち尽くした。

黒いスーツをビシッと着こなすスレンダーな長身、短い髪の分だけ頭が小さく見えるいかにも『デキル女』系美人さん。

どんな客でも笑顔で対応するだろうデキル女も、俺の出現には肝を抜かれたように、ぽかんと目口を開け放っている。

まさに森でクマに出会ったお嬢さん。


「…………やっぱ帰る。」


さすがの俺も居心地が悪くなり、用件どころか挨拶もなしに踵を返す。

と、いきなり襟首を掴まれた。
ぐええええ。


「は!?ちょっと、ワケわかんないわよ!いきなり現れたかと思ったらいきなり帰るなんて、何のつもりよ。」

「だから。いきなり現れて悪ぅござんしたなっ!というわけで帰ンだよっ!」

「意味が分からないって言ってるでしょっ。………大体それ」


チラリ、と俺の子脇に抱えている物に視線をやる。


「………私の誕生日プレゼントじゃなくて?」


自信のない回答を披露する生徒みたいに恐る恐ると尋ねる。

……まあな。
俺が誕生日を覚えている事がそもそも奇蹟だ。

開き直って花束を押し付ける。


「おめでとさん。四十四歳の誕生日。」

「シツレイねっ!私まだ三よ!」

「……一歳くらい変わンねーだろが。」

「っていうか、本当に????」


マキはぶつくさ言っている俺をスルーして、俺が誕生日を覚えていて花束を持って現れいでた事に驚きを露わにした。


やっぱ、らしくない事はすべきじゃねーな……。


体裁の悪さをごまかすようにさっさと退散しようとするのをマキは逃がさなかった。

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