恋愛の神様
慌てて立ち上がろうとするのを草賀さんに制され、ワタクシは再び床に腰を落ち着けました。
「チィちゃん……何があった?」
「いえ。何もありませんけど。」
要領を得ない質問に首を傾げながら平静に応えます。
草賀さんは一度押し黙って、再び口を開きました。
「んじゃ、質問変える。今日どんな事あった?」
「はぁ……どんなって…」
ワタクシは戸惑いつつ、記憶を辿って今日一日の全てを語りました。
いえ、語るような程もありません。
昨日と同じく、今野社長に連れられてアッチコッチ回って、お土産を貰って、帰り際の駅で部長とお話した事―――
ほら、あえて語るような大事件などありません。
記憶を浚いながら訥々と語るのを草賀さんはじっと聞いておりました。
話が終わって
「分かった」
と一言。
はぁ……何が分かったなのでしょう?
尋ねるように視線を上げれば、草賀さんは少しだけ目を眇めました。
「チィちゃん、自分が今もんのすごくオカシイ事にも自覚ナシ、か。」
「オカシイ?……ワタクシが、ですか?」
「そ。本来なら会った早々、笑うトコロだけどな。」
自分を見下ろしようやく指摘の意味を知りました。
今野社長に頂いたお土産を背負ったまま…
どうも肩が痛いと思ったらコレの所為だったようです。
しかも頭からつま先まで全身ずぶ濡れで、ワタクシのいるトコロがブラックホールの入口みたいにジンワリ暗い染みになっております。