恋愛の神様
財産にも権力争いにも興味はなかった。
虎徹が欲しいのならくれてやっても構わなかった。
ただ掌返したような虎徹の態度に打ちのめされた。
慕っていたのは俺だけで、虎徹は俺を将来邪魔になる鬱陶しい存在だと思っていたのだ。
俺が伊熊の会社に入る気になったのはそうした虎徹の存在があったからだ。
俺は絶対這いあがる。
虎徹を追いぬいて、いつか虎徹が望んでいた物を全て手にしてやる。
亜子と出会ったのは俺がそう決意して暫くしてからだ。
会社の内定も決まったある日、伊熊が手掛けたビルの落成式があって、珍しく西院条の招待でパーティーに出た。
そこで久しぶりに顔を合わせた虎徹から紹介された彼女。
物腰が柔らかく、しっかりしているようでどこか儚げな雰囲気の―――亜子。
この容姿のお陰で学生時代から女には事欠かなかった。
こっちとしても揉め事はゴメンだし、本気になるわけではなかったから、見栄えが良くて適度に遊んでる女達。
亜子を見た瞬間、それまで自分が相手にしていた女の程度を知ったようで愕然とした。
それはそんな女を相手にしていた自分のレベルを指摘されたのも同然だった。
虎徹とのレベルを見せつけられたようで、頭を掻き毟りたいような苛立ちに駆られた。
この女が欲しい。
どうしても。
彼女の隣こそ俺に相応しいと思った。