恋愛の神様

それはまるで自分が死んだ事にも気付かず、生前の生活を淡々と繰り返す哀れな幽霊のようではありませんか。

自分の恋心にも気付かず、失恋にも泣けないまま、あくまで日常をこなそうとした自分の愚かさに呆れてしまいます。

呆れて―――笑いが噴き出すトコロなのに、目の縁から涙が零れ落ちました。

草賀さんがそっと視線を落とし、それを唇で優しく拭って下さいます。


温かい。


ワタクシは渾身の力で草賀さんに腕を突き、引きはがしました。


「……スミマセン。ダメです。」


俯いたままワタクシは絞り出すように言いました。

顔なんてあげられません。

もう―――涙が止められないんです。


「ゴメンナサイ……ダメなんです。ワタクシ今優しくされたらこの温もりに飛びついてしまいます。」


自分が凍えているのに気付いてしまったら、寒くて寒くて堪らないんです。

だからこの温かい腕に触れたら、きっと飛びついてしまう。

だけど―――


「これまで、この腕が好きで、草賀さんに触れられるのが好きで、この手が与える快楽が欲しいと思って、欲しました。……だけど今日はそうじゃないんです。この寒さから救ってくれるなら、この温もりじゃなくても―――イイ」


ゴメンなさい。

ワタクシは随分非道な女デス。

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