恋愛の神様
「おい。草賀チョット来いや。」
丸暴みたいに呼ばわる声に俺は溜息を吐いて立ち上がった。
「何ですか、部長。」
部長のデスクまで来た俺に、部長はおんや?と眉頭を持ち上げ、ついでに書類からも顔を上げた。
「………何ダヨ?何か怒ってっか?」
それは一重に『俺はオマエを怒らせるような事したか?』という意味でだろう。
傍若無人に仕事を押し付けるが故に、よくも部下から恨まれるのを自覚しているようだ。
「いーえ。別に。」
俺はそっけなく否定する。
不可抗力とはいえ小鳥を傷つけといて、太平楽な顔をしているのが忌々しい。
それが週末を推測させるような上機嫌なら尚更だ。
まぁな、妻帯者のくせに野山の相手をしたら、それこそモンダイだけど、な。
だからどうしろとは言えないが、びしょ濡れでぼんやり座ってる小鳥の姿を見たら、どうしたってアイツの肩を持ちたくなるってもんだ。
さすがに俺もイイ大人なのでビジネスとプライベートを混同させる気はなく、出そうになる棘を隠して努めて平静を装う。
だが、この人はトコトン人の逆鱗を逆撫でするのが得意らしい。
「………………はぁ?ブライダル部門………俺が、ですか?」
ウチの会社の手持ちにブライダル経営がある。
伊熊のジジイ、あれでいて乙女趣味か?なんでこんな職種に手を出したんだ?と言うような異色の業種で、オーナーが伊熊というだけで殆ど本社とは別で確立している。
創立十周年記念だかで、大々的にブライダルフェアを催すにあたり、企画から執行までの手伝いを本社の営業課に依頼してきたらしい。
で、俺?
俺はぐっと奥歯を噛み締めて飄然としたクマを睨みつけた。