恋愛の神様
俺が押し黙ったのを一件落着とばかりに部長が呵々大笑する。
「勿論、お払い箱なんかじゃねーぜ?その証拠に、アッチの仕事を主にこなしてもらう傍らコッチの仕事も並行してもらおーと思ってっし!」
「……鬼ですか、アンタは……」
「アァ?甘えんなよ。コッチだってオマエに抜けられたら困ンだよ。誰が仕事すんだ!」
褒められて喜んでいる場合じゃなかった。
てか、アンタこそ部下に甘えてないで仕事しろよって!
呆れるが今更なので溜息を吐くに留まる。
「ともかくよー。ウチの仕事にしたら道草みたいに見えっけど、オマエの経験にはイイ勉強だと俺は思うワケ。だから物は試しで行ってこいや。」
ブライダルの仕事が将来どんな役に立つんだ。
訝しく思いつつも、この人にそう言われては何も言えない。
軽い調子でペロッと言ってくれるが、その目は強く揺るぎない。
この人がそう言うからには多分、何かの役に立つんだろうな、そう思えるくらいには俺はこの人を買っている。
一応腹は括ってみたものの、否が応にも溜息しか出ない。
「にしても……本当に畑違いでこればかりは自信はありませんよ。結婚式なんて精々友人枠で招待されるくらいですし……」
「おう。それについては、とびっきり有能な相棒を付けてやったから安心しとけ。」
はぁ………相棒?
首を傾げた時、キィと小さく一課のドアが開いた。
そこにぴょこっと現れた顔に目を瞬く。
あー…………ヤな予感。
「……あのう……部長にお呼び立てされて馳せ参じたのですが……」
戸口で怪訝そうに小首を傾げる野山に、部長はにやっと笑った。
「今回の相棒―――俺の秘蔵っ子を特別に貸し付けてやンよ。」
多分、何も知らされていないのだろう戸惑い気味の野山と、一人得意げなクマと―――
俺は額を押さえて深い溜息を零した。