恋愛の神様
そう。
この人がウチの部長のオクサン、だ。
支配人は華やかな口紅に彩られた唇を持ち上げてふふっと笑った。
「だってアノ人が俺の娘だって豪語するんですもの。そしたら私がママを主張してもイイと思わない?」
それはそうと……と、支配人は整った爪で野山の頬をふにふにと突いて、顔を緩ませた。
「ひよ子ちゃんって本当に愛らしいんだもの。ああ、いっそお家に持ち帰りたいわ。疲れて家に帰って、ひよ子ちゃんを撫で撫で出来たら癒されるわ、すっごく!……本気でどう?私、そんじょそこらの男より稼ぐわよ?」
真剣な顔で覗きこまれた野山は「えぇっ?」と顔を引きつらせる。
寂しいならダンナとイチャイチャしなさいっ。
俺は即座に内心で突っ込む。
……ったく、この夫婦は野山を一体何だと思ってるんだ。
連れ帰って撫で撫でだと?
権利があるんだとしたら、俺が先だろーが!
同性と言う事で人目をはばかることなく、ぺたぺた触っているのを見て俺は小さく舌を打つ。
これはあくなき独占欲と欲求不満、だ。
最近は互いに慣れない仕事で疲労困憊し、俺に至ってはここの仕事の後に自社に帰って仕事を手伝ったりしてるもんだから残業三昧で、呼びつける暇もない。
あー……あの肉球(←ある意味で)を傍若無人にぎゅーってしながらぼへーと余暇を満喫してぇ……。
て、俺は枯れ果てたジイサンか!
だけど、疲れてくると余計に時々無性に触りたくなる。
一人悶々としながらランチの行く先が決まるのを待っていると、ふいにドアが開いて、ココには見慣れない男が姿を現した。