恋愛の神様
「ちょ……いいわよ。ハンカチなら私だって持ってるんだから。」
「いい。オマエンのみたいな薄いンじゃ拭き切れねーだろが。」
「にしても、よくハンカチなんて持ってたわねぇ」
「おう。二か月くらい入れっぱなしだ!」
……エバるなよ、無精者が。
呆れつつ俺は立ちあがった。
「ごちそうさまでした。これから企画詰めるんで……野山行くぞ。」
「ふぁい!」
野山が俺に倣って弁当の礼を言って、二人で退室した。
「あのぅ………あんまり気にすることもないと思いますヨ?」
どことなく廊下を歩いていると、脇から野山がそうっと覗いてきた。
「ワタクシがたまたまブライダルの仕事に合っていただけであって、草賀さんは草賀さんで能力を高く評価されていらっしゃったわけですし……」
多分俺が心なし発散しているイライラに気付いて、そう言ったのだろう。
「うん?それは分ぁってるよ?」
支配人の言い分も、鹿島部長の言いたかった事も俺は理解した。
自覚はある。
順応性があるというのは既存のモノを取り入れる能力が高いという事―――それは新しい物を生み出す能力とは別物だ。
ニーズに適ったものを既存の物を組み合わせて的確に間に合わせてゆく。
その能力を支配人も部長も否定しない。
上にいく者には必要な能力だ。
野山の持つモノとは違う。
豊かな発想力。
多面的で柔軟な考え方。
部長が俺にブライダルの仕事を与えて、野山を付けた目的はこの辺りなんだろう。
右も左も分からない業種で、柔軟に対応していく力……新しい物を生み出す能力。野山からそれを教えてもらえってトコロなんだろう。