恋愛の神様
「ところでさ、二之宮専務の婚約話どー思う、アンタ。」
「さぁ?」
どーでもよさげに生姜焼き肉を口に入れる女に俺は眉を寄せる。
「信じらんねぇー。『さぁ?』ってなんだ『さぁ?』って。女子の間じゃ今一番ホットな話題だろーがよ。」
「関係ないですね。二之宮専務もその相手も、まるで興味ありませんもの。」
地味子さんはもぐもぐと肉のうまみを噛み締めながら、先を続ける。あくまで淡々と。
「噂なんてものは一番アテになりませんもの。そんな正体のないものを鵜呑みにして踊らされるよりは、当人に直接聞いた方が正確です。無論、そこまで気になるのでしたら、ですけど。」
気にならないからそこまでしないのだ、とその言葉で女の意志が知れる。
可愛くねーが、正論。
俺は口を尖らせつつ、押し黙った。
女がその顔をじっと見据えていたことなど知らず。
「……あのぅ、猿田さん。つかぬ事をお伺いいたしますけど。」
「何?」
「ひょっとして、渦中の二人のどちらかとやんごとなき曰く、がありますか?有体に言って懸想を抱かれておりますか?ということですが。」
げほっ――――と呑みかけていた味噌汁を噴いた。
やんごとなきとか懸想とか、アンタ一体いつの時代のヒトだよ!?
内心突っ込みつつ、噎せていてそれでころではない。
顔が赤くなるのは噎せているからだ!!
「て、なんで俺が男に懸想抱かなきゃならんかっ!!俺は―――」
口元をゴシゴシ拭って、ぼそっと呟いた。
「単なる腐れ縁、だ。阿藤……美弥の」