恋愛の神様
阿藤美弥
※※※miya atou※※※
私は閑静な廊下をカツカツと勢いよくヒールを打ち鳴らして歩いていた。
パパの代理で二之宮専務と打ち合わせを終えた後。
『人の心を試そうと言うのはあまり感心しないな。』
表情こそなかったけれど、やんわり釘を刺されて私は悔しくなって逃げ出した。
まるで子供みたいな悪戯がバレタみたいで。
そんな事をした自分にも腹が立って。
それを気付かれていないなんて思い込んでいたのがまた恥ずかしくて。
カッカとしながら勢いよく出口を目指していて、通りがかった社員食堂で思わず立ちすくんでいた。
心臓が嫌な音で軋んだ。
満員御礼の社食のテーブルに見知った顔があった。
ここの女子社員と思しき制服の子と、親しげに何か話している。
普段ならきっと唇を噛み締めるだけして、見なかったフリで顔を背けて立ち去った。
だけどその時は既に二之宮専務の言葉に心が乱れてて、どうしても我慢なんかする気になれなかった。
飛び込むようにカウンターに向かって適当な定食を手にその席へ突進する。
「あら。久しぶりね。席が一杯なの。相席してもよろしいかしら?」
内心の乱れを努めて冷静に覆い隠し、私は精々気丈に顎を聳やかした。
猿田―――悠介は、顔を上げて驚いたように目を見張った。
ついで躊躇うように隣の女子に視線を向ける。
私もそれに釣られるように彼女に視線を向けた。
なんなのよ、この腹立たしいほど地味な子。
どこにどんな魅力があるのかさっぱり理解できないような女の子に苛立ちが増長する。