恋愛の神様



『現在底辺なんですよ?これ以上アナタは何を怖がるんです?』



午後の就業中、チィ子の言葉がまるで呪文のように頭をぐるぐる回っていた。

あからさまに避けられて、会っても碌に口も聞いてくれない。

確かにこれ以上悪くなりようのない状況ね。

強いて言うなら面前と『オマエの事がキライだ』と宣告されるくらいかしら。

でも、この状況なら宣告されなくても変わらないわ。

チィ子の言葉に私は目からうろこが落ちたみたな気分になった。もしくはヤケッパチ領域に突き飛ばされた?カンジかもしれない。

仕事を終えると同時に私は古い友人に電話を掛けた。


「猿田……悠介のマンション知らない?ホラ、同じ業種だから仕事絡みで、アイツそそっかしいから忘れ物して……」


相手は、ああ、アイツならやりかねないねーと笑って、特に探る様子もなく住所を教えてくれた。

荷物を纏めて社長室へ向かう。まだ書類と格闘しているパパの前へ行って挑発的に顎を聳やかして宣言した。


「パパ。私今日、帰り遅くなるからママにゴハン要らないって言っといて!か、彼氏ン家、遅くなるっていうか、お…お泊りになるかも、だから!」


このくらいの見栄は許されるわよね。
……うん。
許されるわよ!

私の宣言にぽかんとしたパパは、私が部屋を出て行く背中に「そのうち紹介してくださいね……。」とちょっと寂しげに呟いていた。

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