恋愛の神様
「アンタがっ、私を嫌うから……言えなかったんじゃないのよぉ」
ゴメンナサイって
スキだって
「だから、泣くなって。」
怒ったように言ってフリース素材の袖でゴシゴシと乱暴に拭う。
「やだぁ!化粧剥げるぅ!」
悠介はウルサイとは言わなかった。
「キライで避けたわけじゃねーよ……寧ろ、多分、逆。好きになりそうだったから、………………逃げた。」
え?
私は驚いて、そろそろとフリースの先から悠介を伺った。
「オマエお嬢様じゃん?オマエのパパだって二之宮専務レベルをお望みだろーし、俺じゃ釣り合わんだろ。」
平然とした物言いにむかむかしてきて、私は傍にあった枕を掴んで振りおろした。
「なんなのよ、それっ!!私の事が好きなら、連れ去るくらいの根性みせなさいよ!!何で、何もしないで諦めちゃうのよ!私を好きってその程度なの!?」
誰よりも私を普通に扱ってくれた男の子。
だと思ってたのに、誰よりも私をお嬢様扱いしてたって事?
コイツホント、バカ!!
「アンタがどう思ってんのか知らないケドっ、パパもママも普通の中年だし、策略結婚考えるような家柄じゃないのよ!!」
そりゃパパが二之宮専務に『こんな人が婿なら会社は安泰なのになぁ』的な事を言ったけど、単なる社交辞令だし、本人にはあっさりと『ザンネンですが、先約がいますので』なんて返されて、ジョーダン話にもなってない。
なのにどういった経緯か、婚約したとデマが広がっていて―――私は二之宮専務が躍起になって否定しないのをイイことにちょっと利用した。
二之宮専務の会社に悠介が仕事で出入りしているのは知ってたから。
少しは興味持ってくれるかもしれないなんて、浅はかな事を考えた。
二之宮専務はその辺り、薄々勘付いていたみたいだけど……。