恋愛の神様
これでいいんだわ。
私は人知れず小さく嘆息する。
本来なら絡み合う筈のない赤い糸。
だってレオは私を愛していない。
私達の関係は虎徹くんを介さなくては成り立たない。
レオは虎徹くんを憎んで、嫌って―――
憧憬している。
私が虎徹くんのモノだったからレオは興味を持った。
お兄ちゃんのモノが何でも欲しい幼い弟のままに、レオは虎徹くんの彼女がとても良い代物に見えたんでしょうね。
愛おしく―――愚かな子。
いつだってレオは私を介して虎徹くんを見ている。
私を愛する事で虎徹くんと張り合って、私を奪い取れば虎徹くんに少しは勝ち誇った気になるんでしょう?
カレにとって大事なのは私が『二之宮虎徹の彼女』ということであって、『犬飼亜子』なんて本来どうでもイイ存在なのよね。
分かっていて私は自分の寂しさを紛らわすために愛されているフリをする。
用事を終えて二階の廊下に差し掛かったところで、私は前を行く人物に足を止めた。
少し距離があったけれど、華やかな子だから直ぐに分かる。
久しぶりに顔を見たこともあって、私は珍しく自ら近づいた。
だけど私が声を掛ける前に脇の廊下から飛んできた声に先を越された。
「スミマセン。お待たせ致しました。」
パタパタと小さな足音をさせて缶を二つ持った小柄な子が駆けよる。
「えー?何でコールドよ?普通ホットだろー?」
「えぇ!?だって、草賀さん、先ほど食堂で熱いお茶に文句言ってたじゃないですか。」
「そりゃ食堂が暑かったからだ。責任取って温めろ、人肌で!」
「嫌ですよぅ!ワタクシが冷凍になっちゃうじゃないですかぁー。」
缶コーヒーを奪い取って首筋に無理矢理宛がうレオに、女子社員が悲鳴を上げて逃げ惑う。
その光景に私の胸はズキリと痛んだ。