恋愛の神様
怪訝に思いつつも見知った顔ですので何の戸惑いもなく足を踏み出しかけ、
―――直ぐにワタクシは躊躇しました。
なにぶん、薄暗く気付かなかったのですが、どうやら他にも誰かいるようです。
「ココに来るも久しぶりだなぁ―――」
「ええ……。忙しかったみたいね。」
「……まあな。」
途切れ途切れに聞こえる会話の声は、女性のものです。
ワタクシは慎重に遮蔽物から顔を覗かせました。
びくっと身体が震えます。
思わず声を上げそうになって、必死に呑みこみました。
キス―――していました。
唇を離し草賀さんが髪を掻きあげ、少しだけ困ったように笑いました。
「……アイツとはまだ話してねーのか?」
「それは今、必要なコト?」
「……いや。」
草賀さんの身体に細い腕がスルリと回りました。
「……だったら、言わないで。いつもみたいに優しく、して。」
少しだけ目を眇めた草賀さんは、やがて「ああ」と応えて、綺麗に彩られてかたちの良い唇に自分の唇を重ねました。