恋愛の神様
俺はぐっと奥歯を噛み締めた。
誰が一番卑怯で最低なヤツかなんてのは、今更だ。
亜子がいながら野山に手を出した。
他の女みたいに暗黙の了解でアソビだと割り切って付き合っていたわけでもない。
自分の都合で手繰り寄せて愛でて―――愛情を注いで大切にしてみても、それは愛玩動物に対するものに近くて―――いい加減に扱えば怒鳴り散らすような他の女ほども対等に見ていなかった。
相手が野山だと気が抜ける。
一緒にいるのに片意地を張らなくても済むから、他の誰といるより楽で、とても居心地が良かった。
だから、亜子に想いを寄せながらも、野山と一緒にいる方を無意識に選んでいた。
亜子が俺と野山の関係をどこで見抜いたのかは知らない。
しかし、それを知った亜子が『何をしたか』は、今のやり取りで察した。
姿を現した時の野山の表情を削ぎ落としたような冷静な貌。
何も感じなかったワケじゃないはずだ。
まるでそれは嵐の前の静けさ、のようだった。
それでも
―――こんなやり方をするアナタがキライです。
そう言う時ですらオマエは極力感情を抑えて、理性的に言って退けるんだな。
俺が……、亜子が何をしたか知っても、尚。
胸がきりっと痛んだ。