恋愛の神様
野山小鳥
ガラス張りの渡り廊下は、マジックミラーが程良く陽光を遮断し、心地よい光に包まれています。
吹き抜けになっていますので、足元には入り口フロアが見えます。
ランチタイムも後半に差し掛かり、仕事が押した方、気の早い方がまるで働きアリのように忙しなく行き来しております。
心地よい陽光に包まれながら彼等を異世界事のように見下ろしつつ、ワタクシはいそいそと髪の毛を手櫛で整えておりました。
スタンバイはオッケー!
いつでもウェルカム!
撃ち落とす気は満々です!
ポケットにこっそり忍ばせている武器は―――今、壮絶な人気を博している恋愛映画のペアチケットです。
ワタクシが、積年のライバルであるクマを狙う腕利き猟師みたいな気持で時を待っていますと、渡り廊下の端についに彼が姿を現しました。
山田太郎。営業二課。
茶髪のロン毛でお調子者の彼はちょっとチャラ男に見られがちだけど、実は結構堅実な25歳。もちろん独身。
「野山さん。」
ワタクシに向かって無邪気に手を振って駆けてくる彼が眩く輝いて見えます。
いえ、決して、マジックミラーから差し込む陽光の所為ではありません。
「野山さん、ありがとう!あ、これ、この間借りた単行本」
ワタクシの前まで来た彼は、ワタクシを待たせた謝罪もそっちのけに、嬉しそうに捲し立て持っていた単行本を私に差し出しました。
この単行本は今、巷で壮絶な人気を博している恋愛映画の原作となったノベルスです。
数日前、押し付けると言っても過言ではない強引さでワタクシが貸しました。
もう、おわかりですね?
獲物はまんまとワタクシの用意した餌に食いついたのです。
後は釣り上げるのみっ!
(って、設定が猟師から漁師に変わってますが、まぁ、いいです。)
ワタクシはこっそりとポケットの武器に手を伸ばしました。
「喜んで頂いて嬉しいです。それで、なんですが―――」
「佐藤さんもメッチャ興味あったみたいでー、盛り上がっちゃってさー。今度一緒に映画行こうって約束したんだよ♪」
……………………は?
サトウ???
ワタクシの眼は点になりました。